パンプキン・タイム 1【フルカラー】 (comico) パンプキン・タイム 2【フルカラー】 (comico)

概要

comico連載(フルカラー縦読み漫画)を紙漫画の構成に再編集された漫画です。
再編集されているのでマスによって解像度が違ったりしますが、comico再編集はそういうものなので、そういうものとして楽しみます。

主人公は小学校高学年までは男の子でしたが、ある日突然原因不明の女子化を遂げ、高校生になる時には肉体はすっかり女子になっているという話です。
私はこういう「原因不明の性転換」の設定自体はOK派なので、OK派として読んでいきました。

絵が可愛いなと思って読み始めたんですが、気になるところがいくつかあって、どんどんひっかかるようになりました。

バレたくないのかバレてもいいなのかわからない

主人公・樹(伊月)は、野球少年利都に「自分はかつての幼馴染の樹である」ことがバレたくないのかバレてもいいのか、樹の本心がどう設定されているのか全然わかりません。

「俺はというと…野球をやめた」
これは分かります。
「野球をやめた」の理由に
「なぜなら」「女として生きることになったから」
と自身でモノローグするとおり、異性化したあとまで野球を続ける気がなかったというのはわかります。
もともと野球の「成績が伸びない俺」、野球仲間の親友が遠方へ離れ、異性化した後の野球の試合で「最悪な結果を迎えてしまった」、ため、野球と決別するのはわかります。
それはいいんです。

いとこの清美が話を転がすための便利屋すぎる

清美の「私の事情を知って協力してくれてる」「天然」が便利すぎます。

「私の事情を知って協力してくれてる」わりには、元男性である樹に女性らしさを迫る。
例)
「スカートすごく似合ってるね!」
「本当に女の子みたーい」
「樹も少しは髪形整えなよ」

「私の事情を知って協力してくれてる」わりには、男性への性的関心の共感を樹に振る。
「さっき地下鉄にいた人超カッコよかったね」

清美、デリカシーがない。
本当にお前樹の事情分かっているのか?

樹の女性化、今日昨日始まったことじゃないんだろ?
樹もう高3だろ?
樹の女性化始まってそこそこ長い年月ともに暮らしてきたのでは?

樹「男見てドキドキするわけねぇだろ…」
樹が今初めてこれを言うような必然性がないんです。
清美が本当に「事情を知って協力してくれてる」なら、元男子の樹が男に性的に無関心、これは分かっていて当然なのでは。
なぜ清美はこれを分かっていない?

樹にこのセリフを口にさせたいのなら、樹の女性化事情を一切分かっていない別の友達から樹にむけて言わせるべきだと思います。
なぜ清美が「樹にデリカシーなく女性らしさを迫る役割」なのかがよくわかりません。

清美は樹に女性らしいジェンダーを迫るわりに、「もし元に戻っ…」などと口走り、異性化がいつか治るものだとも思っているようです。
ここら辺ちぐはぐすぎないか???


「事情を知って協力してくれてる」わりには、樹の女性用新名「伊月」を呼ばず、男性時旧名「樹」を「ついいつものクセで」、高3になってまで呼ぶ。
ポリシーで樹と呼び続けるというわけではなく、「ついいつものクセで」。


このあたりすべて、序盤で読者に設定を披露するための段取りでしかないので、残念な気持ちになりました。

この二人こんな調子でやってきたなら、周囲にとっくに「あいつは樹と伊月という二つの名前があるらしい」「あいつ昔野球やってたらしい」とかそういうのバレまくってるのではないの?と思うんですよ。
隠しごとを隠せてる二人の様子、ではないんですよ。

必然性のない事象が発生しまくる

高3の春に突然清美が樹に「最後の試合のことまだ気にしてるの?」と突然振る必然性は…?
樹がただ野球のグラウンド見てただけでその話を振るなら、そのイベントはこれまでもたびたび発生しているのでは?と思います。
樹が清美にその話を振られ、凹んで「想像するだけで腹が立つ」というくらいの話を、衝撃大きく受け止めてしまうほどのイベントが、なぜ今?

理都が海外で有名野球少年になっていることを知った清美の反応
「この子ってもしかしてあなたの…かけがえのない親友じゃない?!」
「もしかして…まだその子と連絡取ってるの?」
清この清美の反応が高3の春である今なのは何故?
清美は樹の親友・理都の「名前は知らないが存在は知ってる」「二人が連絡取り合ってるかどうかは知らない」程度のようなんですが、設定が、存在が、便利すぎやしないか?
要するに読者の代弁者的存在
なので…。

「私の事情を知って協力してくれてる」いとこの清美が、樹に「今初めてこんな話を振る」理由が「利都を記事で見たから」だけでは弱すぎると思います。
清美、樹が過去に野球やってて親友がいたことだって知ってるのに。

読者に提供する情報コントロールが緩く、一貫性がないように思いました。

樹のちぐはぐ

利都が帰ってくるってだけで、こんなに動揺するとはなぁ
樹が利都にただならぬ思いを感じているのは分かります。
利都の帰国を知ったら試験問題が解けなくなるくらい上の空だった、そのくらい利都になにがしかの思いがあるのは分かります。
でもその内容が分かる情報が提供されないんです。

樹が自分でその思いを認めながらも、利都との写真を伏せる。
何も変わらない。
利都が何をしようが私には関係ない。 私にだって自分の人生がある。
そうだ全部忘れて勉強に集中しよう
これは振り返るのを拒否する行い・言葉だと思います。

キャラの気持ちと行動がちぐはぐしている、これは動揺している描写であるというのは分かります。
利都の写真を伏せて「勉強に集中しよう」と言ったけど、本当は「利都が帰ってくるってだけで、こんなに動揺する」自分がいる。
そういう描写だとわかります。

樹が自分の気持ちを整理できていないのは分かります

樹、清美との電話
「私もう利都に会うつもりないし、この話はもうやめにしよう」
そう言いながらも利都っぽい人と目が合って、びっくりして隠れてしまう。

そう言った途端利都が登場するスピード展開はまあ置いとくとして。
これ、恋してるという描写ではないんですよ。
樹自身が恋愛的執着心だとも友情的執着心だとも決着をつけることができていないんだと思うんですけど。
多分そういうものなのでそれはいいんです。

気付かれたくないのか気付かれたいのか

気になるのは、何を隠したくてその行動を取ってるのか分からない描写が多々あることです。

◆コンビニで利都っぽい人と目が合ったけど →気付かれたくなくて逃げる。
◆利都に会いたくて球場に来たけど→ 雰囲気が変わった利都を見て帰る。
◆でも真弥に引っ張られて控室へ。「(やっぱり行かないほうが…)」と懸念している(会いたくない)→でも顔を合わせても気づかれなかった →気づかれなくて落胆
◆サインボールに書いてもらう名前を「藤原樹」と告げる →「(はっ!うっかり昔の名前を…やっちまった…」 利都からボールを奪って逃走

何これ??
何したいの???
気付れなくて落胆→うっかり自分の本名を言う。 気づいてもらいたくて言うのではなく、「うっかり」。
突っ込まれると逃げる。

何これ、何したいの????
気付かせたくてしてるんじゃないのになぜ気付かせるようなことを?
その行動を取る必然性は?うっかり????

「樹は混乱してるんだな」と受け取めるしかないんですが、こうした行動の一貫性のなさはこの後も続きます。

2巻

転校してきた真弥に「野球部まで案内して」と頼まれて、断れない樹。
樹はすごく嫌な顔をするのに
特に断る理由も無かったので一緒に来たが、まぁ大丈夫だよな…?
何が大丈夫なんだ???
嫌な顔したじゃん、嫌なんだろ?
大丈夫じゃないことが起こるかもって思ってるんだろ?
「断る理由も無かった」って、お前すげえ嫌な顔したじゃん。

利都に会いたくないのであろうことは明らかです。

断りたいようなことが起きてるのに「断る理由も無かった」とするだけの必然性がない。

それで結局利都と顔を合わせるハメになっている。

2巻、利都と話す機会が増えますが、「利都の中の樹の存在」について利都の口から触れられることがあっても樹が特に嬉しがることもなく…
むしろ前より気まずくなったかも…
きっと今さら幼馴染だとか言いだしづらいからかもな
と樹は自分の心境を整理します。
利都と他愛ない会話もするようになりますが、「今さら幼馴染だとか言いだしづらい」ため樹は自分の正体を話しません。

それなのに球技大会の男装コンテストに出るとか言う。
理由は「球技大会の女子チアガール衣装を着るのが嫌だから」です。
男装コンテストに出て利都に正体が発覚するリスクより、女子チアガール衣装を着るのが嫌。
それならなんで隠してるんだ、という話です。
そんなんでいいならもうとっととバラしちまえよ。


この漫画の苦手なところ

樹に降りかかる「樹にとって回避したいような出来事」と「樹が隠していたいこと」の天秤が、なんかおかしいですこの漫画。
読者からしたら「えっそんなことしたらバレるのでは…?」という行動を樹は平気で取るので、「あぁ樹は絶対に隠したいと思っているわけでもないんだな」と思うんですが、そんな話面白いか?
とっととバレちまえよ。どうにでもなんだろ。


バレたらどうなるんだろうハラハラとかないです。
樹自身がハラハラしているようなそぶりを時々見せつつも、そのくせバレておかしくないような行動を取るからです。
どうにでもなりゃいーじゃん。